6 ロール・プレイングの実施手順
(1)ウォーミングアップ
ウォーミングアップは「これから起こることへの準備」という意味があります(藤堂,2020)。劇の本編に入る前に,まずグループを凝集させて,参加者に安心して相互に信頼する気持ちを育てることを目的として行います(針塚,2020)。
はじめに,ゲームなど遊びの要素を取り入れながら身体を動かし他者と触れ合いリラックスした雰囲気を作り,参加者が行動により表現できるようにします。次に,今思っていることや感じている感情を理解するためのウォーミングアップに進みます。参加者は日常生活とは異なる自分や役割になり振舞ってみるなどして,今自分が感じていることを意識してみます。
ウォーミングアップは,この後の劇化や,劇を通しての体験や感想を共有するシェアリングのプロセスに入る第一段階として,大変重要です。言葉と非言語の両方でのコミュニケーションを行うことによって,参加者は互いに親しみや安心感を抱き,これから始まる心理劇への意欲や自発性が高まります。
(2)劇化 (ドラマ)
自発性が尊重される安心・安全に配慮されたグループのなかで,即興劇を展開します。シナリオ通りに上手に演じることが目的ではなく,ある場面や役割の中で,どのように動きたくなり,また,動きながら感じるかを体験することが主目的です(土屋・茨木・吉川,2020)。どの演者も観客も大事な参加者です。今ここで,劇を演じたり見たりしながら感じることを大切にします。
劇化に当たっては,参加者一人ひとりにとって心豊かなドラマ体験となるように配慮して,役割や場面を設定します。過去の体験と劇中体験が重なり二重の傷つきとなる等を避けるために,場面や役割設定について配慮します(早川,2020)。また,劇を通しての新たな気づきを得て未来に向けて歩みだせるようなプロセスや終結となるように,十分に留意します。ある役を担ってプロセスを体験する,役割交換等で相手の立場・視点を体験する,場面転換で新たな体験から気づきを得るなど,様々な技法があります。最後に,現実の自分に戻るために,役割解除を行います(藤堂,2020)。
(3)シェアリング
シェアリングでは,参加者がセッションで経験した自身の感情を主役が示してくれた感情と重ね合わせ,分かち合います。劇の中の感情や経験はその人だけのものでないことを発見し,弱さや困難などかけた部分があるにもかかわらず,グループに受け入れられていると感じ,凝集性を高める時間でもあります(藤堂,2020)。
即興劇の中で体験した感情を共有するときには,初めに観客から,その後,周辺の役割を演じた演者から主役へという順で行います。演技の上手下手は問いません。互いの感想を聞きながら自身のものと重ね合わせ受けとめます。どの参加者の感想も,あくまでも劇中の人物とその行為や感情,考えについてのコメントとして共有し,現実の特定の個人の否定や攻撃に陥らないように留意します(藤堂,2020)。シェアリングは,ドラマから現実へ戻る「架け橋」としても重要です。
テーマについてのディスカッションでは,役割体験を踏まえて,建設的,発展的,創造的に発想することに重点を置きます(義永,2020)。「体験的な行為や活動を通じて学んだ内容から道徳的価値の意義などについての考えを深めるようにする」(文部科学省,2023)ためには,演じる場面や演者を吟味し,演じた後の話し合いで演じた意味を明確化することが大切」です(早川,2020)。
(義永睦子)
引用文献
針塚進 (2020).第一段階のW.U.の重要性 心理劇入門 日本心理劇学会(監修)(pp.32-33) 慶應義塾大学出版会
早川裕隆 (2020). 学校教育(道徳)における心理劇 日本心理劇学会(監修)(pp.102-109) 心理劇入門 慶應義塾大学出版会
文部科学省(2023). 生徒指導提要 (令和4年 12月) 東洋館出版社
藤堂宗継 (2020). 基本的すすめ方―ウォーミングアップ,ドラマ,シェアリング 日本心理劇学会 (監修) 心理劇入門 (pp.79-81) 慶應義塾大学出版会
土屋明美・茨木博子・吉川晴美(2020). 教育・福祉の現場における心理劇 日本心理劇学会 (監修) 心理劇入門 (p.90) 慶應義塾大学出版会
義永睦子 (2020). 保育者・教員養成の心理劇 日本心理劇学会 (監修) 心理劇入門 (pp.229-238) 慶應義塾大学出版会